日銀追加利上げ観測で進む円高と円高に連動した株価の急落|2024年
筆者が少し不思議に思うのは、米株価が大きくは下がらないことだ。株価はこれまでFRBの利下げ予想を織り込んで上がってきた。ならば、トランプ当選で金融緩和期待は剥落しているのに、なぜ株価は大幅に下がらないのか。これも、ドル高と同じく、潜在的なトランプ・トレードの押し上げ圧力が見た目以上に強いことを示唆している。
【楽天証券】12/13「 「日銀、利上げやめるってよ」 ドル/円155円目指し上昇中」FXマーケットライブ
長短金利をみてみると、11月の利下げ後のFFレートの誘導目標は、4.5~4.75%である。長期金利は4.4%台まで上がっていて、これはほぼ同水準だ。ここには短期金利の見通しの変化が背景にあるのだろう。今後は、短期金利があまり下がっていかないだろうという予想なのだ。従来の短期金利>長期金利の図式、つまり長短金利の逆転が続いてきた。しかし、それは解消する手前までやってきている(図表2)。FRBは、9月時点で2025年中▲1.00%ポイントの追加利下げを予告しているが、長期金利はその利下げをあまりカウントしていない水準で推移している。これは、潜在的なインフレ圧力を見込んでいるということだ。そして、FRBがどこかで利下げを休止して、いずれ利上げ方向に転じてもおかしくはないことを見込んでいるのだろう。米金利のイールドカーブは、1~3年にかけて4.2~4.3%程度になっている。
ドル円レートは、1ドル156円台までドル高が進んだ(図表1)。11月5日の選挙でトランプ氏が次期大統領に決まり、ここにきて上下院ともに共和党が過半数を占めることが確実になったからだ。下院でねじれがあれば、法案修正の圧力がかかるが、トリプルレッドが確実になったので、そうした圧力を受けずにトランプ政策が通りやすくなった。それは間接的に財政赤字要因になるので、米長期金利が上昇した。これはドル高要因だ。
日銀が追加利上げを決定 政策金利0.25%に 円安ドル高是正も考慮か
円安進行が目立ってきている。トランプ当選で地殻変動が起きている。財政悪化の観測が、米長期金利を押し上げている。FRBの利下げについても、2025年にかけては進めにくいと予想される。日米金利差の拡大は、ドル高・円安要因である。今後、これに対抗しようとする日本の通貨当局の口先介入と、日銀の追加利上げはどうなるだろうか。
今後の円安進行で気になるのは、日本の通貨当局が為替介入に打って出るかという論点だ。2024年4月29日・5月1日には介入を実施している。為替相場が連休前に1ドル153~155円で膠着していたところから、一気に156~157円に円安が進んだところで、頭を押さえるように9.8兆円の為替介入が行われた。このときは随分と投機色が強かった。現在は、シカゴのIMM通貨ポジションは、以前よりも円売り方向になってきたが、4・5月ほどは投機筋の円売りポジションが膨らんでいない。だから、今のところ実勢を反映した円安に見えるが、円安の勢いが強いと介入の可能性は高まっていく。
一方、国内では日本銀行の幹部から利上げに前向きな発言が相次ぐ。
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金利差に影響を与える日銀・FRBの行動の起点は、日米のインフレ動向にあり、ドル円レートはインフレ・データの公表時に大きく動く状況がしばらく続くのではないでしょうか。
日経NEXT【年内利上げはどうなる?日銀総裁の「気になるワード」】
もちろん、金融政策運営は経済・物価・金融環境など全般を見て判断するため、円安だけで日銀が追加利上げや国債買入れ縮小を決定するわけではありません。また、日銀の行動だけでは日米金利差が大幅に縮小する可能性は低く、FRBの利下げ観測が高まるかどうかが重要です。
さて、日銀はどうだろうか。衆議院選挙で与党が敗北して、筆者は日銀の年内利下げはないと思った。しかし、ここにきて12月利上げの公算は高まっている。来夏に参議院選挙を控えた石破政権は、物価上昇の再加速を快くは思わないだろう。秋の経済対策の吟味も行われている。日銀は、クリスマス商戦を念頭に置き、「米国経済の見極め」を行うつもりだ。このアナウンスは、2024年12月か、2025年1月のいずれかに利上げをする意向を示すものだ。それに対して、足元の円安進行は12月利上げの可能性を高めるものだろう。近々、財務官や植田総裁から円安への口先介入が行われるだろう。そうした展開になれば、12月利上げは近いというシグナルだと考えられる。
日銀、円安対応で利上げも 米国にインフレ再燃懸念―トランプ氏勝利
このような日米金利差拡大による円安ドル高の背景には、「低金利通貨を売って高金利を買う」という、いわゆる「キャリートレード」が積極的に行われていると考えられます。加えて、投機筋が「この先も金利差がなかなか縮小しないので『キャリートレード』による円売りがまだまだ続くだろう」と見込んで、先取りで円売りを仕掛けている可能性も高いと思われます。
米大統領選で、大規模減税など景気刺激策を掲げたトランプ前大統領が勝勢となり、6日の東京外国為替市場の円相場は対ドルで急落した。
このような円安ドル高の主因となっている日米金利差ですが、この拡大した金利差が長期間継続するとの見方の背景には、「緩和的な金融環境を当面継続する」という日銀に対し、FRBは「インフレ率が持続的に2%へ向かっているとの確信がさらに強まるまで利下げをしない」との方針を示していることがあります。このように、日銀は緩和継続で、FRBは高金利維持の方針を示す以上、近い将来に金利差が急速に縮小する可能性は低いため、投資の取引も投機の動きも円売りに傾きやすい環境となっています。
円安と物価の背後に日銀が利上げを急いだ「もう一つの理由」 住宅ローン金利や為替相場の行方は? ..
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[PDF] FRB 利下げ転換後のドルサイクルとドル円相場の行方
日銀は2000年以降ではこれまで3度の「利上げ」を行った。2000年8月11日と2006年7月14日のゼロ金利解除、そして2007年2月21日の再利上げだ。この3回の「利上げ」では、一時的に数円程度の円高はあったものの、基本的には米ドル高・円安トレンドを変えるものにはならなかった(図表参照)。
➢ もっとも、2022 年以降の FRB によるインフレ率抑制を優先した急激な利上げの影
この3度の「利上げ」は、基本的に日米の政策金利差米ドル優位が5%以上と大きく開く中で行われたものだった。その意味では、大幅な金利差米ドル優位の中での日銀「利上げ」に伴う小幅な円金利上昇が米ドル安・円高をもたらす影響は限られたということではないか。
米利下げは概ね織り込み済。米金利の低下余地は限られ、ドル円は下げ渋りへ
足元の日米政策金利差米ドル優位も5%以上の大幅なものとなっている。その意味では、マイナス金利解除でも過去3回の「利上げ」と同様に、円金利の小幅な上昇による米ドル/円への影響は限られるのではないか。
株価急落の悲劇と望まぬ形で進む円安是正の衝撃 決して日銀の利上げがその始まりではない ..
しかし、ドル円レートが急変動したゴールデンウイーク期間後に、植田日銀総裁の発言に変化が出てきました。5月8日に植田総裁は「過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があることは意識しておく必要がある」と発言し、円安で物価が上振れれば金融緩和縮小の可能性を示唆しました。その後、5月13日には冒頭に記載したように、日銀は国債買入れオペを減額しました。
19日の円相場は一時1ドル157円台まで下落した。植田総裁は賃金と物価の好循環が重要との認識を示し、慎重な姿勢を維持している。利上げ ..
それにしても、なぜ日銀「利上げ」は今回も含めて日米金利差が大幅に開いている中で行われるのか。その理由の1つは、デフレからの脱却などの日銀の「利上げ」条件のクリアには、日本国内の景気だけではなく、世界景気の拡大が必要であり、その中で米国は大幅な金利引き上げに動くためだろう。2000年8月、そして2006年7月の2度の日銀ゼロ金利解除の前までに、米国の政策金利であるFFレートは5~6%以上に引き上げられていた。
進まぬ日銀利上げ織り込み 韓国「非常戒厳」に動揺 どうなる12月会合
今年3月に日銀はマイナス金利を解除し、量的・質的金融緩和政策を終了しましたが、金融市場に過度の影響を与えないよう、国債買入れオペはそれまでと同様の規模で継続する方針を決定していました。しかし、その買入れ方針にはやや幅が設けられていたため、その範囲内で国債購入額を減らしたのです。これを受けて5月13日に、10年国債利回りは4月末よりも0.07%高い0.94%へ、2年国債利回りも同じく0.04%高い0.33%へ上昇しました。
2022年は円安ドル高にブレーキ?米利上げ、新型コロナ、中間選挙
もう1つ、これは2000年8月のゼロ金利解除のケースに該当しそうだが、根強い「円高恐怖症」により、日銀の「利上げ」でも円高にならないほど円安地合いが定着することを待つ影響はあったのではないか。この時の日銀内には、実際には1年程早くゼロ金利解除を行いたい考え方もあったが、1米ドル=100円割れ近くまで米ドル安・円高が進む中で、さらなる円高をもたらしかねない「利上げ」を先送りした可能性があった。
米利下げ示唆で日本への影響は 「急速な円高懸念」「日銀にプラス」
もちろん2004年以降も、ドル円レートが日米金利差から離れて動く局面はありました。そのため、最近の「34年ぶりの円安」などと言われる大幅円安には、金利差以外の要因も影響していると思われますが、図1に示した矢印のように、日米金利差とドル円レートの動きはかなり類似しています。日本円のような超低金利の通貨で運用しても利子はほとんど得られませんが、米国ドルのような比較的高い金利の通貨で運用する方が多くの利子を得られるので、通貨の魅力度では「ドル>円」となるのはよく知られています。
金利は引き上げられるのか? それでも利上げをしたらどうなるか? 賃金と物価の好循環ではない
この点は、今回はこれまでの日銀「利上げ」局面とは大きく異なっており、米ドル/円は2000年以降では最も米ドル高・円安圏での推移となっている。その意味では、マイナス金利解除で円高への反応は限られるとしても、逆にさらなる円安のきっかけになるということではないだろう。
第57回「日米金利差とドル円レート」 知るほどなるほどマーケット
2006年7月にゼロ金利を解除し、2007年2月に再利上げを行って日銀は政策金利を0.5%まで引き上げた。ただそれでも当時の米ドル高・円安トレンドは変わらず、結果的には2007年6月まで続くところとなった。
トランプ円安が突き進む ~1 ドル160 円を目指す展開~ | 熊野 英生
日銀の姿勢が変化してきたことで、日本の金利が上昇し、日米金利差がやや縮小しましたが、図1にあるように、そもそも5月13日時点の日米金利差は10年国債利回りで3.5%程度、2年国債利回りで4.5%程度と、大幅に開いているため、日本の金利の小幅な動きではこの金利差に与える影響は軽微です。実際、ドル円レートも一瞬は円高に振れたものの、すぐに円安傾向へ戻ってしまいました。